Labyrinth 2019 message from the organizer

今年の開催が危ぶまれる中、私の脳裏を過ぎったのは、紛れもなく、2013年のラビリンスのことでした。その年は最終日である3日目に台風が直撃し、その日の公演を終日中止にせざるを得ませんでした。翌日、雲ひとつ無い快晴の下で会場の撤収をする中、涙ながらに地団駄を踏んだ時の心境を今でも鮮明に覚えており、当時はその挫折を前向きに捉えることが出来ずにおりました。しかしながら台風一過の青空は素晴らしく澄んでおり、いつの日かこんな美しい空の下でラビリンスを開催できたらと思っておりました。

今年、開催直前の木曜に、3回目となる台風に関するアナウンスをしました。“We believe our plan is safe, and we look forward to hearing our sound system sing at that special time of day, 台風一過.” 

3日間の初日を中止にするというこの決断は容易ではありませんでしたが、この時周囲を取り巻いていた恐怖や悪条件に打ち勝ち、嵐が過ぎ去れば、その先には澄んだ空と美しい星”New Stars”が見える確信がありました。

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photos: Kaz Kimishita

photos: Kaz Kimishita

 “Qualitative Action”(=質的行動)と名付けていた初日が中止となり、我々の取った行動と引用元のインタビュー内容がシンクロしたことで、その意味はより一層クリアになりました。日曜の午後、全ての準備が整い、オープニングの音源として、1979年に録音されたロバート・フリップのインタビューからスタートしました。以下が “Qualitative Action”の引用元にもなったそのインタビューの内容です。

“クリエイティブになれず、マニュアル通りの機械論的に物事を進めると、あらゆる周囲の変化に臨機応変に対応できず、正しくない結果を招くことがよくある。しかしながらクリエイティブであることは簡単ではない。何故なら機械論的な状況と異なり、常に未知なる結果を予測しなくてはいけないからだ。

現在、我々は間違ったことが平気で罷り通る世界に身を置いている。両手をあげて、私たちは間違っていないはずだ。どうしてこの世界はこんな恐ろしい状況なのだ?どうして神は導いてくれないんだ?天国からおりてきて、トランペットを吹きながら僕らの環境を正してくれる天使たちは一体どこにいるんだ?こんな気持ちにさえもなる。

これらの状況全てが連鎖しているという概念について、ジョン・ダンが以下のように解いているーー ”誰かのために鐘が鳴っているのかと問うてはいけない。何故なら私たち全員のために鳴っているのだから。” アイデアを持って、自身に向かって最大限に取り組んだ結果、理論では語りきれない結果が待っており、そこには希望がある。

量と質は二つの全く別の実証であり、そこに因果関係はない。大切なことは行動の「質」であり大きさではない。どんなに小さくても「質」にこだわることで、周囲の誰かしらの人生に多大な影響を与えることもあるだろう。

個人的な見解で言うと、自分の内面と向き合い最大限の努力をすることで、その影響は周囲にも拡散し、影響する。そこには希望がある。つまり、世界を正す天使たちはどこにいるか?ここにいる。物事の質の善し悪し、、全ては我々が取るアクションの「質」次第である。”

そして、演奏の開始と共に太陽が顔を出しました。

台風一過での開催。これはラビリンスにおけるここ数年の私の希望でもありました。上記の引用にあるように、些細な質的行動、その集合体、これらの一連の動きは結果として人々の生活、引いては人生に影響し、連鎖して行きます。私の場合、今回の準備におけるケーブル一本一本の選定から、その時々に応じた細かいイコライザーの設定、またフロアで流れる一曲目から最後の曲まで、これら全てのこだわりの集大成が、あの場に集まった人に連鎖し、最高の空間が出来上がったと確信しております。

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ラビリンスの母とも言えるYasuyo、常に物事を推進し続ける原動力となったSo、私を常にサポートしてくれるこの二人がいてくれて夢が叶いました。そして運営スタッフのキャプテンである、Reo、Feroshi、Mina、Matsunami、Manami、Kotoたちは、開催場所を変更し、新しいフォーマットを構築する必要がある中、努力を惜しまず働いてくれたことで今回のラビリンスが実現しました。バーやエントランス、アーティストケアを始め、全てのスタッフが難しいコンディションの中で笑顔を絶やさず設営・運営・撤収に尽力してくれました。

天幕、Riki、Hibiki、Bamboo Project、Akariya、海小屋、Bed、Tetsu、岩城氏、奥秋氏を始めとする会場の装飾・設営チームは、森に囲まれた空間を瞬く間に輝かしいダンスフロアに仕立てあげてくれました。また毎年ライティングを担当してくれている森氏、ステージマネージメントのJakey、クリアなサウンドを鳴らし続けてくれたPAのSteve、Funktion-Oneを鳴らしてくれた音響の松本氏の協力があって、あのステージが完成しました。台風のリスクがあるにも関わらず、スピーカーを提供してくれたApple Sound、Try Audio、SES、Deuceの各社と、それをとりまとめてくれた松本氏の尽力は計り知れません。そしてこの状況でも勇気をもって設営し営業してくれた飲食店・物販の皆さんのお陰で、あの村が出来上がりました。今回関わってくれた全ての関係者と共に、今回あの空間を創出できたことを心から光栄に思っております。

そしてもちろん、今年出演してくれた全てのアーティストたちにも。You made the system sing.

何よりも、一番重要なことは、そこに集ってくれた皆さんがいた、ということに他なりません。上越新幹線の運休や、関越自動車道の遮断という劣悪な状況の中でも、諦めることなくルートを見出して、あれだけ多くのオーディエンスが宝台樹キャンプ場にたどり着いてくれたという事実が何よりも素晴らしいと感じております。ダンスフロアに溢れかえるポジティブなエナジーと美しいパワーは凄まじいものでした。You made the forest glow.

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今回のこのイベントを通して、勇気や判断、創造的である姿勢など、様々な気付きを共有できたとしたら、我々も嬉しく思います。当然ながら安全の確保に関しては真剣に向き合っておりましたが、それと同時に、人生における「遊び場」を提供することにも真剣に向き合っております。最高の「遊び場」を提供することは容易ではなく、そしてそれを今後も守り続けて行かなくてはいけません。今年の開催に際しては常に天気情報の詳細や、登山家・エキスパートから寄せられる情報を監視し、注意深く決定事項を進めた末に2日間の開催が実現しました。

何事も正しい判断のタイミングがあります。時期尚早だったり、困惑状況の中で正しい判断ができるでしょうか?私たち状況を見極めた上で正しいタイミングで判断を下すことができたと考えており、それを信じて参加してくれた方々には感謝しております。

もちろん全てが良かったとは言い難く、シャトルバスの待ち時間が長く、山道が狭いために大型バスの交錯に時間がかかった点に関しては我々の運営上の決定的なミスであり、長時間待たせてしまった方々や、この時間に辛い労働を強いられたスタッフにも深くお詫び申し上げます。改善すべき点は明確ですので、この経験は必ず来年のより良い運営に活かして参ります。

しかしながら、一点伝えたいことは、あくまでラビリンスはテクノのキャンピングイベントであり、ホテル宿泊のための全てのサポートをするためコンシェルジュではない、ということです。昨年までの開催地であった苗場は、ホテルやペンションがすぐ近くにある、という稀で特別な環境であったため、それに慣れてしまったという事実はあるかも知れませんが、開催地が変わった今、それは約束されるものではありません。宝台樹は美しく、また雨風にも強いキャンプ場です。趣旨を理解して頂き、来年度以降、改めて是非キャンプでの滞在を検討して頂ければ幸いです。

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そしてもうひとつ、心からの感謝を伝えたいのは、マネージャーの林さんをはじめとした宝台樹キャンプ場のスタッフの方々です。

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最初に訪れて、門を叩いたその日から、見知らぬ我々のことを受け入れてくれ、この一年を通して信頼関係を築くことができました。常にユーモアのある発言で和ませてくれたり、激励してくれたり、開催に至るまで協力的に段取りを進めてくれました。このように素晴らしい年長者の人柄に触れることで、都会の若者たちも多くを学び、いい影響を受けて成長して欲しい、とさえも感じました。全ての撤収が終わった後に、今回一番力になってくれた林さんが、「俺は今月いっぱいで定年退職だ。退職前の最後の花道のつもりでこのチャレンジをやったんだ」ということを笑顔で伝えてくれました。

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この男気溢れる判断と言動に私たちは感銘を受け、また今年で最後ということがショッキングなニュースではありましたが、また来年の開催でゲストプロデューサーとして復帰してくれることを望みます。:) 

また、私たちが苗場より以前にラビリンスを開催していた会場「川場キャンプ場」のオーナーだった井口さんが、今回はキャンプファヤー担当で復帰してくれました。10年の歳月を経て群馬県に戻った私たちと、こうしてまた新たな関係を築いて行くことは我々にとっても非常に感慨深く、大きな意味があります。

私が宝台樹キャンプ場を始めて訪れたのはもう10年以上前のことで、初めて見た日からこの地で開催することは夢でもありました。昨年の苗場の開催を前に「今回で苗場での開催は最終回です」というアナウンスをしましたが、そのタイミングではまだ何の確約もありませんでした。ただ、恐れてばかりいては何も変わりません。物事を前進させるためには、時にはリスクを取りながら前に進む判断も必要です。

2019年、新たなサイクルを始める節目となった今年のラビリンスでは、過去のどの回よりも学ぶことが多い年となりました。

最後に改めて、あの場に集まってくれた方々全てに感謝の気持ちを伝えつつ、来年、20周年となる記念すべきラビリンスが、私たち全てにとって人生における発見の多いラビリンスとなりますように。

You all are very special.

Russ “The Monk”
2019年 10月27日 東京

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